Secure Reliable Transport (SRT)は、長年にわたり放送業界が直面してきた「低遅延」と「信頼性」の二律背反を、不安定な公衆インターネット上で解決するIP映像伝送プロトコルです。

UDPの高速性を保ちながら、独自のARQ(自動再送要求)メカニズムによってパケットロスを回復し、AES暗号化による堅牢なセキュリティを提供します。

最大の新規性は、Haivision社による2017年のオープンソース化という戦略的決断です。

これによりSRTアライアンスが設立され、AWS、Google Cloudを含む500社以上が加盟する巨大なエコシステムが形成されました。

このネットワーク効果は、プロプライエタリなZixiやオープン標準のRISTといった競合技術に対し、SRTを事実上の業界標準へと押し上げました。

SRTは、高価な衛星回線や専用線への依存を断ち切り、コスト効率と柔軟性に優れたIP/クラウドベースのワークフローへの移行を可能にしました。

特に、現場と制作拠点を地理的に分離するリモートプロダクション(REMI)を加速させ、ESPNが数百万ドル規模のコスト削減を達成。

国内でもフジテレビジョンや朝日放送テレビが国際スポーツ中継の本線回線としてSRTとクラウド活用に成功しています。

これは単なる伝送技術の更新ではなく、放送局のビジネスモデルを物理インフラ投資(CapEx)からクラウド運用費(OpEx)へと根本的に転換させる、

業界「仮想化」の核となる基盤技術です